Cessna152 Stall & Spins

フルパワー失速 (power-on stall)

これもライセンスには必須

失速というのは翼が揚力を失った状態で、こうなると飛行機はもう浮いていられない。 コントロール不能になり落ちてしまうのである。

航空力学の勉強を始めたばかりのころは、自家用ライセンスごときでそんな怖えぇ事をやらされるワケがないと信じていた。

しかし実際にはフライト訓練の初日からいきなり失速の練習がはじまりギャアアアアアおかあちゃ〜〜ん!!?

なぜ右も左も分からないうちから失速の練習をさせるのか? 実はこれが出来ないと着陸や離陸を安全に行うことが出来ないのだ。

一般的に、相対風(relative wind)と迎え角(angle of attack)の角度が18度前後(Clmax)を超えた時に必ず失速に入ると 言われているが、そこに至るきっかけはピッチ角やバンク角や対気速度であったりと様々である。 中でも次の2つは必修だ。

@パワーオフ失速 (power-off stall)
スロットルをアイドルにし、速度がwhite arc (Vfe) に入ったらフラップ30度出して操縦桿を引く(pitch up)。 警告ホーンを無視してそのまま引き続けると速度がVso以下になり、ふわっと機首が下がって失速に入る。フルパワー入れてリカバー。 速度50ktsまで戻ったらフラップ20度。55ktsで10度。60ktsで0度に戻す。
※これは着陸時にフレアをかける理屈とほぼ同じ。これが出来ないと着陸できない。

Aフルパワー失速 (power-on stall)
スロットルをアイドルにし、55ktsまで速度が落ちたところでフルパワーに入れ操縦桿を引く(pitch up)。 上昇できないほどの機首上げ姿勢にすると速度がVs1以下になり、左右どちらかにバコーンと機首が下がってダイナミックに失速する。 操縦桿をゆるめ、傾きと反対方向のラダーを踏んでてリカバー。
※これはテイクオフ時に上昇する時の設定とほぼ同じ。失敗するとスピンに入りやすい。

というわけで今回はファルコンヘッド機長によるAのフルパワー失速。 一瞬カウルがグラっときたのち、ガーンと左に機首が下がって失速しているが、 瞬間的にリカバーしているので高度・針路とも全く変わっていない。
(そういやヒヨコが初めてコレをやった時は、500ftも高度を落として機首が180度反対方向をむく大胆さであった。 「どうやったらそこまでヘタクソに出来るのか教えてくれ」と機長からお誉めの言葉を頂戴したのだ。エヘン。)

ちなみに失速警告ホーンが聞こえないのは、何かの病にかかってホーンがお亡くなりになったためである。
この訓練校でいちいちこまかいことを気にしてはいけない。

撮影日時:2006年12月9日



スピンとリカバリー

対気速度ゼロからVnoまで

注:良い子は絶対にマネをしてはいけません。(機体損傷もしくは墜落の可能性があります)

スピンというのは両翼が完全に失速した状態で、まっさかさまに回転しながら 落下してゆく現象を指す。この間、当然だが操縦桿は全く効かない。

こんな非常事態なのに「しょんべんしてえ」とか言いながら、 かったるそうに操縦しているのはファルコンヘッド機長である。

いちおう機長に教わったスピンのエントリーからリカバリーまでの一連の動きは次の通り。

@安全のため、開始高度は5000ftAGL以上で Power-on stallに入れる(フルパワーで失速させる)。 その方がバコンと落ちるのでスピンに入れやすいらしい。
開始時点から機内でピーと鳴っているのは失速警告ホーン(stall horn)である。

Aこの時、飛行機は右か左に回転しながら真下に向かって落ちる。 このときのA/Sは0ノット(失速してるので速度ゼロ)である事を確認。 機首が地面を向いた瞬間に次の操作を同時にやる:
・ターンと同じ方向のラダーを思いっきり踏む。(でないとスピンに入らない)
・パワーを完全に抜く(アイドル状態)、キャブヒートON(アイシング対策)
・操縦桿は思いっきり引いたまま。(緩めるとスパイラルに入りスピンにならない)

B以上がエントリーで、うまくスピンに入ると機首を軸に地面がぐるぐる回りはじめる。 この時A/Sを確認し、0ノットの間は回転しててもOKだが。。。(大体1〜2回転くらい)
速度超過すると翼がもげる可能性があるので、3回転以上はさせてはいけないらしい。
いずれにせよ何回転できるかはA/S次第とのこと。

C少しでもA/Sが上がってきたら間髪入れずに速攻でリカバー。回転と逆方向のラダーを踏んで スピンをとめる。操縦桿もゆるめる。すると機体の安定性が復活し、自動的に水平飛行に 戻ってゆく。
が、実はこのとき機体にかなりGがかかる(2回転した後なら約4Gだ)。同時にすごい勢いで加速するので、 決してVno (Green Arc上限)を超えないように、早めのリカバリーが必要である。

D上の操作で一度A/Sは加速するものの、機首が水平になるにつれ次第に減速する。 A/SがVnoからVaまで戻ってきたら、パワーを入れてリカバー終了。

というわけで、スピンはA/S(対気速度)のコントロールが命綱のようだ。
A/Sだけで考えるなら、スピンエントリー時は速度ゼロなのに、リカバー時にはVno(111kts) を超過するほどの勢いで加速する。 持てる速度域の全てを使い切るのがスピンの醍醐味かも知れない。
(なお、C152のスピンでは、3回転で約1000ft落ちると言われている)

しかしファルコンヘッド機長はそんな事はどうでも良かったらしく、しょんべんするため 速攻で空港に帰投。すぐにトイレに駆け込めるよう、わざわざハンガーの目の前でエンジンを止め、 ダッシュで姿を消したのが印象的であった。

撮影日時:2006年12月3日